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仙台地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 月館宇右衛門

被告 仙台国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「原告の昭和二五年度分確定申告に対する訴外八戸税務署長の更正決定に対する原告の審査請求につき、被告が、昭和二七年一〇月二日附でなした審査決定は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

(一)  原告は、肩書地で洋品雑貨商を営んでいるものであるが、昭和二五年五月三一日所得税法第二六条の四第四項によつて、青色申告の承認申請書を提出した。そして、昭和二六年二月二八日、八戸税務署長に対し、昭和二五年度の所得金額を五五八、〇〇〇円として青色申告をしたところ、同税務署長は、昭和二六年一一月九日、これを二、〇七六、〇〇〇円と更正し、更正に関する調査は、仙台国税局の収税官吏によるものである旨の記載がある通知書を、その頃原告に送達してきた。原告は被告に対して、同月二四日、同法第四九条第一項により審査の請求をしたところ、被告は昭和二七年一〇月七日附で請求を棄却する旨の決定をした。

(二)  しかしながら、被告の右処分は次に述べるような理由で違法である。

(イ)  原告は、昭和二四年八月、八戸市大字三日町に支店を開設し、営業の拡充を図つたけれども、準備が遅れて、同年一二月開店したところ、昭和二五年二月には繊維製品の統制が解除されたため、繊維製品は暴落し、普通値段の約半額となつたため、莫大な損害を蒙むり、爾後の商品仕入れにも重大な影響を受けて、昭和二五年前半の営業状態は欠損であつた。この頃、繊維製品業者の倒産が続出したことは経済界公知の事実で、原告もその例に洩れなかつたのである。原告は、この営業不振を挽回しようと考えて、昭和二五年五月から帳簿を整備し、同月三一日に青色申告承認の申請書を提出し、計理士の指導をうけて記帳して来た。

(ロ)  しかして、原告の昭和二五年所得金額は六六七、三二二円七二銭が相当である。

その損益を計算すると、

(1)収入の部

売上高 昭和二五年一月一日より同年五月末日まで  六、五〇五、三四九円〇八銭

同年六月一日より同年一二月末日まで   一六、〇〇五、六〇四円二二銭

計                       二二、五一〇、九五三円三〇銭

たな卸高(売価還元法による)           八、〇三八、一三四円四〇銭

合計                      三〇、五四九、〇八七円七〇銭

(2)支出の部

前期繰越商品                   二、〇九一、一八四円〇〇

仕入高 昭和二五年一月一日より同年五月末日まで  七、四二一、一八三円〇一銭

同年六月一日より同年一二月末日まで   一八、六八九、〇一〇円九七銭

計                       二六、一一〇、一九三円九八銭

経費                       一、六八〇、三八七円〇〇

営業利益                       六六九、三二二円七二銭

合計                      三〇、五四九、〇八七円七〇銭

となる。

(ハ)  原告の売上高を各月毎に、本店、支店の別に掲げると、

本店             支店

一月    三一四、一六四円一〇銭    八三九、五五六円六八銭

二月    三四九、九五八円六〇銭    六一五、三五一円八〇銭

三月    五三七、四七六円五〇銭    七七三、一三五円九〇銭

四月    四八二、九六七円四〇銭    九八九、八五九円四〇銭

五月    五五八、七六四円七〇銭  一、〇四四、一一四円〇〇

六月    四七五、六七四円九〇銭    九九一、〇六三円四〇銭

七月  一、〇五八、一四二円五〇銭    九八七、六二七円八〇銭

八月    八九一、八五一円五〇銭  一、三八一、六四三円三二銭

九月    三七九、二八七円一〇銭  一、一三八、三九七円六五銭

一〇月   九七三、六六三円五九銭  一、三六〇、〇四一円四〇銭

一一月 一、三五三、九九三円四五銭  一、一七〇、三五五円六〇銭

一二月 二、一六八、八一三円八一銭  一、六七五、〇四八円二〇銭

小計  九、五四四、七五八円一五銭 一二、九六六、一九五円一五銭

本支店ともの合計          二二、五一〇、九五三円三〇銭

である。

仕入高を各月毎に計算すると、

一月    五六八、六八七円三五銭

二月  一、五〇四、八七六円一〇銭

三月  一、六七五、七八九円八一銭

四月  一、八七三、二〇〇円四〇銭

五月  一、七九八、六二九円三五銭

六月  三、三九九、一三九円三五銭

七月  一、四八九、〇八八円七二銭

八月  一、七四五、四一四円〇五銭

九月  三、二一〇、二七四円七六銭

一〇月 四、二三四、二二一円〇九銭

一一月 一、八三七、〇三八円〇〇

一二月 二、七七三、八三四円九五銭

合計  二六、一一〇、一九三円九八銭

である。

(ニ)  しかして、原告の帳簿は不備のものがあり、不正確でもあつて、特に昭和二五年五月以前のものは粗雑であつたけれども、それ以後は比較的正確である。記帳が粗雑であつたのは、事務に不馴れなためで、当時、青色申告制度となつて間もなかつたのであるから、しかく厳格に解すべきではない。原告主張の売上高は、毎日のレヂスターの伝票によるものであつて、大きな誤りはない。原告が仕入高として主張する二六、一一〇、一九三円九八銭は買掛帳(乙第六号証)記載のものだけではなく、少なくとも被告が現金出納帳(甲第一号証の一、二)より摘出した別紙第二表の金額をも含めて、計算したものである。

(ホ)  しかして、原告の昭和二四年所得額は、四〇〇、〇〇〇円として確定申告をし、八戸税務署長はこれを容認した。又昭和二六年の原告の所得額は一、四〇〇、〇〇〇円として確定申告をし、八戸税務署と折渉の結果一、五〇〇、〇〇〇円と確定した。終戦後の所得額は毎年増加の傾向にあつて、所得税並びに法人税は、その金額が、昭和二四年より同二五年、同二五年より同二六年と増加していること、昭和二五年三、四月頃は繊維製品の統制撤廃で業者が打撃をうけたことは公知の事実であるところ、被告が、原告の昭和二五年の所得金額を二、〇七六、〇〇〇円としたのは、昭和二四年度より約一、四〇〇、〇〇〇円も多く、昭和二六年度より約五〇〇、〇〇〇円も多いことになつて、公知の事実に反する。

(三)  国税局が直接所得税額を調査する場合は、原則として、所得金額が八〇〇、〇〇〇円以上のものであるところ、原告の昭和二四年の所得金額は四〇〇、〇〇〇円、同二五年の所得確定申告額は五五八、〇〇〇円であるのに、被告は、原告を特に指定し調査したものである。これは、原告の所得について、何人よりかの密告で被告の直接管轄として指定し調査したものと思われる。そして調査官はこの密告による先入観と、原告の指導計理士が専門的感覚より貸方、借方のバランスを取るため仕入高、たな卸高にそれぞれ一、二〇〇、〇〇〇余円を水増ししたことに疑惑をもち、原告の所得額の計算を誤つたものと推測される。

(四)  原告の昭和二五年所得額は前記のように六六七、三二二円七二銭であるのに、これを二、〇七六、〇〇〇円と更正した八戸税務署長の処分を認容した被告の裁決は違法であるからその取消しを求める。

と述べ、

被告の仕入高の主張に対し、

被告が仕入帳(乙第六号証)によつて計算した別紙目録第一表のうち、左の点が原告主張額のとおりで被告の主張額は、事実と相異する。

仕入先      被告主張の年末買掛金残高 原告主張の年末買掛金残高

島村商店      二八六、五七七円           〇

菅谷莫大小     二三二、一九〇円     三二、一九〇円

竹内基祐      一一〇、六五五円     六〇、六五五円

福助足袋東北販売   六〇、〇七四円七〇銭   六、八四九円五〇銭

西川産業      四〇九、九二〇円           〇

青木農業      三八〇、一九五円七四銭  九七、〇七二円四〇銭

中村孝        八四、二四〇円    一二六、八三〇円

結局差引すると被告主張の額は一、二三八、二五五円五四銭多い。右のような差異を生じた理由は、昭和二五年末の決算の際、帳簿上買掛代金合計額が四、一二九、四一六円〇七銭であつたのに、仕入補助元帳の人名別勘定合計額は二、八七二、一六〇円五五銭で一、二五七、二五五円五二銭の不一致額を生じた。これは原告が帳簿上計理係を通じないで取引先に買掛金の支払いをした結果であると思われるところ、右決算上帳尻を合わせるため、計理士は事実上存在しない買掛金を、前記各商店の部分に増減して記入したため生じたものである。その他の数字上の差異は計理士の計算並びに被告が帳簿より記入の際誤つたものである。そして前記相異金一、二五七、二五五円五二銭はたな卸高にも買価還元法により一、一六〇、〇〇〇円として増加して記入されているものである。そしてこのことは、被告の調査官が原告の所得調査のため原告方え来店した際、繰り返し説明したところであり、国税局協議団にもその旨を書面で申しいれてある。

なお、被告主張のような計算方法によつてみても、島村商店の昭和二五年度期末買掛残高は零であり、昭和二四年度よりの繰越高は二一一、六五一円であつて、同年度の仕入額は五二〇、〇〇〇円余で被告主張よりも二九〇、〇〇〇円少い。西川産業についても、同様に、昭和二五年度仕入高は一、一七〇、五一〇円五五銭で被告の主張より二一一、四四〇円少い。福助足袋東北販売については、昭和二五年度期末買掛残高は六、八四五円で、同年度の仕入額は一、〇〇四、二五五円であつて、被告の主張より一二七、八八〇円多い。菅谷莫大小については、昭和二五年度期末買掛残高は二一、九三〇円で、同年度仕入高は金二、四六六、五五六円余で被告主張より二七八、〇〇〇円少い。これによつても約七〇〇、〇〇〇円の相異がある。原告の帳簿と、右取引先のそれとの相異は計算の誤り、返品の処理方法、又は年度繰り越し関係よりきていると思われる。

被告は、原告の仕入高を原告の帳簿を基礎として計算するのなら、右原告主張の七店の水増しの事実の有無についても調査して、算定しなければならないのに、これを怠つたため、仕入額において約一、〇〇〇、〇〇〇円を越える金額を誤り、その結果これよりの推計に基く売上高も誤つて、計算しているのは、違法であるから取消さるべきである。

なお、原告は昭和二四年度繰越高を、二、〇九一、一八四円と主張しているところ、この金額の算出は、被告が原告の所得額を調査した際、原告は青色申告承認の申請をし、昭和二五年六月一日よりこの期間を始めた関係上、同年五月末日にたな卸をした結果三五、三九〇、〇五五円八八銭であつたから昭和二四年の繰越高は、三、五〇〇、〇〇〇円を下らない旨を主張したけれども、被告調査官の強硬な主張に屈して、これを認めた結果である。そして、被告調査官は、被告の所得額を更正するにあたつて、前年度繰越高を三、五八五、〇〇〇円として、原告の所得額を二、〇七六、三六九円と計算しているのに、本訴においては繰越高を原告の主張と同様にした。従つて、被告の更正が正しいとすれば原告の所得額は一、五〇〇、〇〇〇円増加して三、五〇〇、〇〇〇円となるべき筈であるのに、所得金額を二、一六〇、〇〇〇円と算出して、更正処分の際と一〇〇、〇〇〇円の差異さえ生じない。そして、被告の本訴における主張額と、更正処分の基礎となつた損益計算書を比較すると、たな卸高及び必要経費、仕入高は大差なく、売上高のみ一、五〇〇、〇〇〇円違つていることからみて、この売上高を操作したことは明らかである。被告は、原告の所得額を二、〇〇〇、〇〇〇円程度とするため売上高の数字をこれにあわせたものといわれても已むを得ないと考える。

と述べた。

被告は、主文同旨の判決を求め、その答弁として、次のとおり述べた。

(一)  原告主張の(一)の事実は認める。

(二)  原告主張の(二)(イ)の事実のうち、原告は、昭和二四年八月、八戸市三日町に支店を開設し、同一二月開店したこと、原告主張のころ、衣料品の統制が撤廃されたこと及び昭和二四年の繰越在庫商品につき値下りしたことは認めるがその余は否認する。

小売物価の推移について、最も信頼すべき統計である日本銀行調査の東京小売物価指数によれば、昭和二五年一月より五月までの衣料品の平均小売価額は、昭和二四年平均に比較して、僅か〇、四三パーセント、昭和二四年一二月に比較しても一一、七一パーセントの下落にすぎない。昭和二五年の衣料品小売業者の実情は、統制撤廃による商品の異常な出廻りに、終戦以来の繊維品不足による需要が殺到し、小売価格も、五月以来漸騰の傾向を示し、未曽有の活況を呈して、前掲東京小売物価指数は、昭和二四年平均に対し、昭和二五年平均は、九、二パーセントの上昇を示し、同年度前半の値下りによる若干の損失を補填して余りあるものがあつた。このことは、通商産業大臣官房調査統計部の調査による全国百貨店の、昭和二五年の衣料品売上高が、昭和二四年に比較し、二、四二倍に増加した事実からみても明らかである。而して、原告が、昭和二五年当時、衣料品販売業者一般の営業状況と相異する状態にあつたと認められる特段の事情は存在しなかつたし、原告は衣料品等の販売について、三二年の経験を持つものであるから、昭和二五年の営業状態は同業者に比較して、何ら遜色なかつたものと考えられる。なお、繊維業者は、(イ)製造業者、(ロ)輸出業者、(ハ)卸売業者、(ニ)小売業者と大別され、それぞれの業種により価格の変動による影響度を異にするものであるが、原告は小売業者に属するもので、商品価額の変動による影響度は比較的少いのである。

(三)  原告主張の(ニ)(ロ)の事実のうち、前期繰越高及び経費の点は認めるが、その余は争う。

所得税の課税標準となる所得の計算については、日常の取引一切が簿記の法則に基いて、整然、かつ、明瞭に記録され、その集約としての損益計算書、及び貸借対照表が作成されてあれば、これに基いて利益金を算定せられるべきものである。しかしながら、納税義務者の帳簿記録、損益計算書及び貸借対照表等に、真実性なく、不当な所得を申告した場合は、右の帳簿、記録以外の客観的資料についても調査し、これらの事実関係を基とし、真実の所得を計算して、申告した所得を更正しなければならない。

而して、原告の帳簿記録は、青色申告書提出の要件である「所得税法臨時特例等に関する法律第二条の規定に基き、法人又は所得税法第九条第一項第六号若しくは第九号に規定する山林所得若しくは事業所得等を有する個人の所得の計算に関し、備え付ける帳簿についての記載事項等に関する省令」(昭和二四年一二月一五日大蔵省令第一〇五号)に規定する事項を遵守していないし、特に右省令第二条の規定に違反し、原告の帳簿は、売上金額、仕入金額の記録に相当の脱落があり、主要簿と補助簿は一致を欠く状態で営業経費の記録以外は信頼するに足りないものである。

原告の帳簿は不備で、その記帳が支離滅裂で真実性がないから被告は原告方に臨み、或は原告の出頭を求めて、調査したが、誠実な回答、確実な資料の提供がえられなかつたが被告の調査の結果から、損益計算によつて、原告の所得額を推計すると、

収入の部

売上高    二六、四二七、七二〇円

棚卸高     六、八七三、七八〇円

合計     三三、三〇一、五〇〇円

支出の部

前期繰越商品  二、〇九一、一八四円

仕入高    二七、三六三、三四六円

経費      一、六八〇、三八七円

営業利益    二、一六六、五八三円

合計     三三、三〇一、五〇〇円

である。

(イ)  商品仕入高の計算については、仕入高を一目瞭然たらしめる帳簿はなく、又本来、仕入を記帳すべき仕入帳の備付けもなく、(乙第六号証の仕入帳はその実質は買掛帳である)且つ、各関聯帳簿は支離滅裂である。本件のように、記帳が不完全で正確な収支計算をすることができない事案においては、仕入帳(本件の場合は実質的には買掛帳)を基礎とした推計方法が最も合理的な方法である。すなわち、諸帳簿は税務のためよりも、営業自体のために記帳されるものであつて、特に対外的な債権、債務に関する帳簿は正確でなければ企業自体不測の損害を蒙むることがあるから、故意に不利益な記帳はされていないのが普通である。従つて買掛、売掛に関する帳簿は一応正確に記帳してあるものとみなければならない。そこで、被告は、原告備付各帳簿について検討の結果、商品仕入高の計算方法として、そのうち、掛仕入は仕入帳により、現金支入れは現金出納帳により、原告が全く記帳しなかつた仕入れは、仕切書によつて、夫々分類計算して算出した。

(a)  掛仕入れについては、仕入帳(乙第六号証)の「売上金額」欄には掛仕入れ金額「受入金額」欄には買掛金の支払い(手形を振り出したものを含む)「差引残高」欄には買掛残高が記載されているから当年度仕入高は、当年買掛支払額と年末買掛金残高の合計から、当年繰越買掛金を控除して、各取引先毎に計算すると、別紙第一表(黒字で表記)のとおりで、計二六、七五九、八四五円六七銭となる。

(b)  現金仕入れについては、商品の仕入れと支払いが一致するから、現金出納帳(甲第一号証の一、二)より買掛金の支払いと認められるものを除いた仕入代金の支払いを調査すると別紙第二表のとおりであつて、計四八九、二〇六円三〇銭となる。

(c)  次に商品を仕入れたにもかかわらず仕入帳、現金出納帳又はその他の帳簿に全く記載していない仕入れについては、仕切書によつて仕入事実、及び金額を調査すると別紙第三表のとおりで、計一一四、二九四円九〇銭となる。

そして、以上(a)(b)(c)の金額を合計して二七、三六三、三四六円八七銭と算出した。

(ロ)  商品たな卸高については、原告は、たな卸についての正規の手続によらないで販売予定価格八、五二八、一二五円を適宜八、〇三八、一三四円と計算したもので所得税法施行規則第一二条の四第六号に規定する売価還元法によつて計算したものではないから、かゝる方法でたな卸金額を計算しては、真実の仕入品の原価を計算することができず、従つて、真実の所得金額を明らかにすることはできない。そこで、被告は原告の所得を調査した当時、原告の提出した資料によつて、たな卸商品を売価によつて計算したもので本店分三、九三八、八三四円と、支店分四、三三一、二九一円五〇銭との合計金八、二七〇、一二五円五〇銭と、月賦未収金三二二、一〇〇円を売価還元法により売価還元率二〇パーセントとして還元計算すると、六、八七三、七八〇円四〇銭となる。売価還元率については、原告が商品在高帳を記帳していないため、正確な算定はできないけれども、実地調査に際して原告の申立及び原告の店舖内の商品の価格と、その仕入金額等を対照調査して確定したものである。

(ハ)  売上商品の仕入価額高は、商品繰越高二、〇九一、一八四円に仕入高二七、三六三、三四六円を加え、右金額二九、四五四、五三〇円よりたな卸高六、八七三、七八〇円を控除した二二、五八〇、七五〇円である。ところでこの売上のうちに、前年から繰越した商品と、当年に仕入れた商品が、幾ら宛含まれているかは、必ずしも明らかではない。繰越商品は原価に対し一二パーセント低廉な価格で、又当年に仕入れた商品は、仕入価格に対して、二〇パーセントの差益で販売しているものと認められるから、売上のうち、繰越商品の占める割合が多ければ、売上高はそれだけ減少することとなる。そこで、被告は原告に最も有利なように、繰越商品は同年中に全部販売し、たな卸商品は全部当年仕入れ商品であるとして計算すると、

原価          売上金額

繰越商品  二、〇九一、一八四円  一、八四〇、二四一円

仕入商品 二〇、四八九、五六六円 二四、五八七、四七九円

計    二二、五八〇、七五〇円 二六、四二七、七二〇円

として算出される。

以上のとおりで営業利益を計算すると、原告の昭和二五年度分所得金額は、二、一六六、五八三円となつて、これは、本件更正による所得金額を上回るから、本訴請求は理由がない。

(四)  次に、現金、預金の収支によつて、売上金額を算定してみると、年初における現金、預金に、当年の売上金額以外の総入金を加えた額と、年末における現金、預金に、当年の総出金を加えた額とを対比し、もし後者の額が、前者の額を超過するならば、その超過額に相当する売上があつたことが認められる訳である。けだし、原告の主たる収入源は事業による売上金であるから、その他の入金のあることが証明されない限り、売上金と認定しても、不合理とはいえない。そこで、原告が現金及び予金の収入、支出を記帳している現金出納帳(甲第一号証の一、一頁一行目から三一頁四行目まで)及び元帳の現金勘定(甲第二号証の一、一頁から四五頁まで、一四八頁から一五三頁まで、甲第二号証の二、一頁から三一頁まで)によつて、現金及び預金の収入支出を調査すると、昭和二五年の総出金額は二四、四八八、七七五円八四銭となるが、この外に別紙第四表、第五表のとおり、出金の事実があるにもかゝわらず、明らかに前記帳簿に記入洩れと確認できる買掛代金の支払い三、三六〇、五七三円六六銭及び手形代金の支払い二、八〇六、四二四円二四銭があるからこれを加算すると、昭和二五年中の出金高は合計三〇、六七二、九三二円〇八銭となる。これに対して、昭和二五年中の入金のうち、売上金以外の入金は二、四九一、五八九円五〇銭となり、これに、年初残高一五、八五〇円を加えると計二、五〇七、四三九円五〇銭となるから彼此対比すると、前者は後者より二八、一六五、四九二円五八銭超過する。これが売上代金の入金であると推察される。このうちには昭和二四年度以前の売掛金が若干あることを考慮にいれても、被告認定の売上高二六、四二七、七二〇円は決して過大ではない。

(五)  また、被告の認定した原告の商品売上高は、原告の営む業種としては不当に高い差益率で計算してはいない。即ち、昭和二五年分仙台国税局管内洋品販売業者(個人)の差益率及び所得率表(乙第七号証の一ないし九)によれば、被告の認定した販売差益率(販売差益に対する売上高の割合)は一四・五パーセントで、原価差益率(販売差益に対する仕入原価の割合)は一七・〇三パーセントであるから、これは他業者のそれに比し著しく低い差益率である。又、仙台市大町五丁目一八九番地藤崎百貨店の繊維品関係の営業概況についての回答書(乙第一二号証)によれば、同会社の昭和二五年の繊維品の売上高は、前年に比し、著しい増加を示して、販売差益率は左のとおりで原告の販売差益率はこれを下まわるものであつて、不当なものではない。

品目    昭和二四年度下期 同二五年度上期 同年度下期

衣料品合計  一割二分七厘   一割六分二厘  一割七分八厘

洋品合計   一一六      一六二     一六六

服装雑貨合計 一七二      一七六     一九六

身廻雑貨合計 一八四      一八八     一九八

平均     一四九      一七二     一八五

なお、百貨店は、通常薄利多売を行つているから、小売商の販売差益率は百貨店のそれより下まわることがないのが一般である。

又、昭和二五年分商工庶業所得標準率(乙第九号証)によつても、被告の認定した原告の所得率は、著しく低いもので被告認定の所得金額は不当でないことが明らかである。

と述べ、

原告の、仕入帳の仕入高には一、二三〇、〇〇〇円を水増し記入し、たな卸高にも同額のものを売価還元法で一、一六〇、〇〇〇円と算出して、水まししているから、この仕入高の水増しを看過してなした被告の仕入高の計算は、その基礎に誤りがある旨の主張に対し、

仕入額に水増しすれば利益は減じ、仕入額に水まししその分たな卸高を増額すると、利益額は同じになる筈であるし、たな卸高の内訳はそのまゝにしておき合計額だけを増額していることが明らかに認められる。これに反して、仕入高の方は別に合計額だけを水ましした様子はないし、又いかなる方法で水まししたか全く明らかにされていないし、記帳のしかたをみても、虚無の取り引きを後日記入した形跡はないので仕入帳に水増ししたものとは認められない。結局利益を増額計算するために、たな卸額だけを増額したものと考えられる。そして、島村商店、西川産業、菅谷莫大小、福助足袋東北販売の四店については仕入帳の記載と、取引先の計算とは、年間仕入高も、期末買掛金残高も一致していないが、何れが正確であるのか確定できないけれども、前記のように虚無の取り引きを記載したことは、認められないので、右不一致の原因は、原告又は取引先の記帳上の過誤すなわち、仕入書からの転記の際の誤り、値引、返品の処理方法の不一致又は不正確なこと、決裁したものゝ記帳洩れ、帰属年度の判定の誤りなどが考えられる。そのうち、支払済の買掛金の処理未済については、買掛金として、当年の買掛金支払額に加算されて計算されるのであるから、結局算出される当年仕入高に増減はないものである。その他の点の誤りは全体としてみれば多寡差引かれて、総仕入金額としては大差ないものと考えられるから、買掛金残高の不一致があつても、そのことから直ちに、不一致の額だけ、年間仕入額が減少するものではない。と述べた。

(立証省略)

理由

原告は肩書地において洋品雑貨商を営み、昭和二五年五月二一日青色申告承認書を提出し、昭和二六年二月二八日、八戸税務署長に対し、昭和二五年の所得金額を五五八、〇〇〇円として青色申告をしたところ、同税務署長は昭和二六年一一月九日、これを金二、〇七六、〇〇〇円と更正し、更正に関する調査は、仙台国税局の収税官吏によるものである旨の記載がある通知書を、その頃原告に送達したこと、原告は、被告に対して、同月二四日、審査の請求をしたところ、被告は昭和二七年一〇月七日附で請求を棄却する旨の決定をしたこと、原告は昭和二四年八月、八戸市三日町に支店を開設し、同年一二月開店したこと、昭和二五年二月は繊維製品の統制が廃されたこと、昭和二四年の繰越在庫品について値下りがあつたこと、原告の昭和二五年の前期繰越商品は金二、〇九一、一八四円で、経費は金一、六八〇、三八七円であることは当事者間に争いがない。

被告は、原告の帳簿が不備であり、又正確でなかつたので、原告の仕入高を基とする推計によつて売上高を計算したと主張するので、この所得の推計は適法であるかどうかについて按ずるに、成立に争いのない甲第一、二号証の各一、二、乙第二ないし第四号証、第五号証の一、二、同第六号証、第一〇号証ないし第一二号証、第一三号証の一ないし四、証人三島木重、前島通、戸狩公夫の各証言を総合すると、原告方では元帳、現金出納帳、仕入帳等の帳簿を備えつけて取引きを記帳しているが、原告の収支全てを記載したものではなく、記帳に確実性がないこと、仕入帳、元帳を対照してみるとその間に齟齬があること、原告の仕入れに関する全てが仕入帳に記載されているのではなく、別紙第二表、第三表記載の計算がそれぞれ記帳洩れとなつていること、被告の係官は前後二回にわたつて、原告方に赴いて、原告の所得の実額調査にあたり、不審な点を指摘して回答を求め、又、原告の出頭を求めて回答をうながしたけれども、原告から誠実な資料、回答が得られなかつたこと、被告の係官が原告方え、調査に行つたとき、その日の売上金についてレヂスターを調べたが、全部とつていなかつたようであること、帳簿を総合して計算すると、原告の昭和二十五年一月一日より同年一二月三一日までの間の現金支出は合計二五、九〇八、六一九円で、入金は合計二三、四二二、四二一円で差引二、四八六、六九三円だけ支出が多くなつて、前年度よりの現金の繰越、預金の払出又は他からの借入金等によらなければ、支出出来ない筈であるが、これらのものが認められないから、入金の記入洩れのあることが明らかである。以上の事情からすると原告の営業に関する帳簿は正確にその取引きを記載しているものとは認め難い。そして右認定のように、原告は被告の係官の調査にあたつて、不審な点について十分の理由を示さなかつたのであるから、仕入高によつて、売上高を推計することは相当である。

そこで、被告の仕入高の算定につき按ずるに、乙第二、第六号証、第一〇号証ないし第一二号証、第一三号証の一ないし四、甲第二号証の一、二、証人三島木重の証言を総合すると、原告の「仕入帳」(乙第六号証)は、内容は買掛帳である。これによる買掛金の支払総額に年末の買掛金の未払残高を加え、これより前年度の繰越金額を差し引いて、昭和二五年中原告が買掛によつて、仕入れた額を算出する方法によると、別紙第一表記載の通り二六、七〇九、八四五円六七銭となること、(右の計算のうち、仕入帳の大居喜平商店の分につき、被告がなした昭和二五年買掛金支払額の計算(黒字で表記)は五〇、〇〇〇円多く計上しているのでこれを訂正して計算する)次に現金の仕入れについては仕入帳に記載がないので現金出納帳の支払いの部分より、仕入帳に記載されている買掛金の支払いと認められるものを除いた仕入代金の支払いを調査して拾いあげ、計算すると別紙第二表記載のとおり四八九、二〇六円三〇銭となること、次に、商品を仕入れながら、仕入帳、現金出納簿又はその他の帳簿に全く記載されていない仕入があつたので、これを仕切書等によつて書き抜き、計算すると別紙第三表記載のとおり一一四、二九四円九〇銭となること、以上三者を合計すれば、仕入高は二七、三一三、三四六円(円未満切捨)と算出されることを認めることができる。

次に、昭和二五年一二月末日におけるたな卸高の算定につき按ずるに、成立に争いのない甲第六号証の一、第五号証と、乙第二号証、証人三島木重、前島通(一部)の各証言を総合すると、原告は昭和二五年末のたな卸をし、これを本店、支店各七冊の表にまとめたこと、その体裁からすると、甲第六号証の一は、原告の本店、支店全部のたな卸を記載したものと認められること、甲第六号証の一により計算すればこの売価の総計は八、一八八、七九〇円五〇銭となること、そして月賦売上未収金三二二、一〇〇円があるので前記売価によるたな卸高八、一八八、七九〇円五〇銭にこれを加算するときは八、五一〇、八九〇円五〇銭となること、被告の係官が原告の所得額を調査したとき、原告は仕入原価に対する売上利益の率について、メリヤス二割、その他の品物は三割である旨申告したこと、これを基礎として、総商品の平均利益率を計算すると、仕入原価の二割七分七厘となり、売価に対する利益率は二割一分六厘となること、従つて、売価に対する利益率は少くとも二〇パーセントとみるのが相当であること、そして売価によるたな卸高八、五九二、二二五円五〇銭について、利益率を二〇パーセントとし、八〇パーセントを乗じて還元した仕入価格によるたな卸は六、八〇八、七一二円四〇銭として算出されること、を認めることができる。よつて、昭和二五年末における仕入価格によるたな卸高は六、八〇八、七一二円四〇銭と推算すべきである。

次に売上高について按ずるに、原告の売上を記載した現金出納帳は前認定のように相当脱漏があるものと考えられるし、他にこれを補充する資料もないので推計によつて売上高を計算しなければならない。そこで乙第二、第四号証、証人三島木重の証言を総合すると、前示当事者間に争いのない前期商品繰越高二、〇九一、一八四円と、仕入高二七、三六三、三四六円との合計から仕入原価によるたな卸高六、八七三、七八〇円を差しひいて昭和二五年において売上げた商品の仕入原価二二、五八一、一八四円を算出したこと、被告係官が原告の所得額を調査した際、原告から商品が値下りし、非常な損失を蒙つた旨の申出があつたので、前認定のように仕入原価に対する売上利益率は二割七分八厘であつたけれども、原告が昭和二四年度から持つていた品物については原価より一二パーセント損をして売つたことに計算し、昭和二五年仕入れた商品については二〇パーセントの利益率として算定したこと、そして右算定の方法が相当であることを認めることができる。而して、右の方法によつて、且つ昭和二四年よりの繰越商品を先づ全部売り尽くしたことにして原告に最も有利になるように計算すると、前年よりの繰越商品の売上高は二、〇九一、一八四円に〇、八八を乗じて得た一、八四〇、二四一円九二銭となり、昭和二五年仕入れた商品の売上高は昭和二五年仕入高二七、三一三、三四六円よりたな卸高六、八〇八、七一二円四〇銭を差しひいた二〇、五〇四、六三四円四七銭に一・二を乗じた二四、六〇五、五六一円三六銭である。これと繰越商品の売上高一、八四〇、二四一円九二銭を合計した二六、四四五、八〇三円二八銭が昭和二五年の売上高である。

そこで、右売上高二六、四四五、八〇三円(以下円未満切捨)にたな卸高六、八〇八、七一二円を加えると三三、二五四、五一五円となる。一方、前期繰越商品高二、〇九一、一八四円に仕入高二七、三一三、三四六円、経費一、六八〇、三八七円を加えると三一、〇八四、九一七円となつて、前者より後者を差しひいた二、一六九、五九八円が原告の所得金額として推算される。

原告は、昭和二五年二月に繊維製品の統制が解除されたため繊維製品は約半額に暴落し、莫大な損害を蒙つた旨主張するところ、成立に争のない甲第一号証の一ないし三、第七号証の一ないし九、第九号証、証人庄司信三の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第八号証、乙第二、第四号証、証人庄司信三、草薙四郎の各証言を総合すると、繊維製品の統制廃止によつて、商品が値下りし、東京小売物価指数によると昭和二五年一月より五月までの衣料品の平均小売価格は昭和二四年の平均に比較し、下落したけれども、五月以来価格は漸騰し、昭和二五年平均は昭和二四年のそれと比較して九・二パーセント上昇していること、全国百貨店の昭和二五年の衣料売上高が、昭和二四年に比較し、二・四二パーセント増加していること、原告は附近の類似の同業者と比較してさして見劣りするような営業状態ではなかつたこと、仙台市の藤崎百貨店でも昭和二五年中に格下して売つた商品もあつたけれども、原価を割つて売つたことはなかつたことが認められるので、原告主張のように約半額も格下して売却したことは認定できないし、原告において特に損失を蒙つて所得が少なかつたことを認めるに足る証拠はないから、原告の右主張は採用することはできない。

次に、原告は、昭和二四年の所得額は四〇〇、〇〇〇円、昭和二六年は一、四〇〇、〇〇〇円として八戸税務署に容認されたのに、これと比較して昭和二五年度の所得額の認定は不当に高額である旨主張するから按ずるに、成立に争いのない甲第三、四号証によれば昭和二四年、同二六年の所得額の認定について、原告主張のとおりであるけれども、昭和二四年、昭和二六年の所得額が原告主張の通りであるからといつてこれをもつても直ちに昭和二五年の所得額の前記認定を覆えすことはできない。

次に、被告の仕入高の主張に対し、被告が仕入帳によつて計算した別紙第一表のうち、島村商店、菅谷莫大小、竹内基祐、福助足袋東北販売、西川産業、青木実業、中村孝に対する年末買掛金残高は、原告の帳簿の収支計算をした計理士が帳尻をあわせるため事実上存在しない買掛金を増減して、水まし記入をした旨主張するので、この点について按ずるに、証人戸狩公夫の証言によれば、仕入高、たな卸高について各一、二〇〇、〇〇〇円位を水ましし、たな卸高についてはこれを売価還元法による還元率二〇パーセントとして計算し記入した旨供述しているけれども、右部分は措信し難く、乙第六号証の内容、帳簿の様式から後に書き加えた形跡は認められない。原告はこの相異額を生じた原因について、原告が帳簿上、計理係を通じないで取引先に、買掛金の支払いをした結果であると主張するところ、前認定のような仕入高の計算方法によると、支払い済みの買掛金の処理が記載されていなくても、記載されればそれだけ当年の買掛金支払額に加算されることになるので、結局、当年仕入高としては増減しないことになる。尤も、乙第六号証、証人羽石道雄の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし三、証人岡喜三郎の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第八号証の一ないし三、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第九号証、証人佐藤善二郎の証言によつて、真正に成立したものと認められる甲第十号証の一、二、証人羽石道雄、岡喜三郎、伊藤照雄、佐藤善二郎の各証言を総合すると、原告と島村商店、菅谷メリヤス、竹内基祐、福助足袋東北販売、西川産業、青木実業、太平洋傘(中村孝)の当年買掛金額、年末買掛残高等相当異ることが認められる。併し乍ら前認定のように仕入帳は別に水まし記入した形跡がないし、仕入帳は対外的な債権、債務に関する帳簿であるから一応その記載を信用しなければならない。右相異点についてその原因は明らかでないけれども、原告主張のように、支払い済みの買掛金を記載しなかつたことは原告自ら認めるところであつて、その余についても、右認定のように故意に水まししたとも認められないので、いまだ右の証拠をもつてしてはさきの認定を覆えすことはできない。

なお、原告は被告が昭和二四年よりの繰越高について調査当時三、五八五、〇〇〇円として原告の所得額を計算し、本訴では二、〇九一、一八四円として計算しながら原告の所得額については、前者と後者で一〇〇、〇〇〇円の相異もないのは、被告が原告の売上高をわざと操作して、原告の所得額を約二、〇〇〇、〇〇〇円にしたものである旨主張するところ、乙第二ないし第四号証によれば被告の係官が原告の所得を調査した際、昭和二四年よりの繰越高について原告の申出をいれて、原告主張のように三、五八五、〇〇〇円とし、売上原価は、繰越商品の在庫状況よりして繰越商品のうち三、〇〇〇、〇〇〇円を売却したものと推定し、金一〇〇、〇〇〇円を自家消費に充てたことにし、その余は当年仕入商品のうち金二〇、六四三、七八三円を売却したことになること、この売上原価に対し繰越商品については(自家消費もいれて)一二パーセント損をして販売したことにし、当年仕入商品については二〇パーセントの利益で売却したことにして、(この率については本訴のものとかわらない)合計二七、五〇〇、五三九円と売上高が算出されたことを認めることができる。原告主張のように本訴において被告は、繰越高を約一、六〇〇、〇〇〇円少い金二、〇九一、一八四円としている。そして前認定のように、被告は、一番原告に有利なように、先づ繰越商品を全部を、一二パーセント損をして販売したものとし、その余は当年仕入商品を販売したとして計算したもので、前に認定した売上高計算方法によると、繰越商品が減額になれば、売上原価はこれに従つて減少するのであるからこれを基として売上高についても減少するので(繰越商品、当年仕入商品の割合及び利益率によつて差異は生ずるけれども)結局、営業利益としては、原告主張のように大差のないものになつたのであつて、この点に関する被告の主張も理由がない。

他に、右認定を左右するに足る証拠はない。よつて、原告の右所得(二、一六九、五九八円)の範囲内で、所得額を金二、〇七六、〇〇〇円とした八戸税務署の更正処分に対する審査の請求に対し、これを棄却した被告の決定は何等違法ではないから、原告の本訴請求は失当である。

よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 桝田文郎 平川浩子)

(別表省略)

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